『思考のための文章読本』花村太郎著 ちくま学芸文庫
ものごとを考えるためのスタイルブック

こんなコンピテンシー強化に役立ちそう!
創造力 表現力

文章読本と名付けられた本はけっこうありますが、この本は、名文とか、わかりやすい文章とか、あるいは就活のエントリーシートをうまく書くためとかの文章読本ではありません。ものごとを考えるためのスタイルブックと言ったらよいでしょうか。

ギリシア、古代中国の思想家から村上春樹まで、古今東西の書物ばかりでなく新聞記事といったものまで、あらゆるテキストから例文を引っ張ってきて、「読み、書き、考えるための話題(なにを)や手法(いかに)を提供すること、できれば、それをツール(道具)として考えるような文章読本」
(「序―思考の形態学」より)を目指したと、著者は言っています。巻末の引用文献一覧を数えたら130冊もありました。

たとえば、「問のいの思考」の章の前文には「問いを明確にすることは、考える力を身に着ける第一歩だ。だが、答えを出すことがすべてではない。
解決されない問いこそ、新たな思考を促すのだ」とあり、例文に吉田秀和さん(音楽評論家)の『LP300選』から、こんな一文が引かれています。
<「天と地ともろもろのもの」を、神がつくった時、どんな音楽が宇宙にひびきわたったのであろうか?
その音楽は、ハイドンの『天地創造』とダリウス・ミヨーの『世界の創造』と、そのどちらに似ていたのであろうか?>。
こうした問いは、「頭の中にいままでになかった美しい思考宇宙が生成してくれる」というのです。

「問いの思考」のほかに「転倒」や「人間拡張」「擬人法」「特異点」など9つの思考のカテゴリーが紹介されています。物質を世間を、宇宙を、斜めに見たり、ひっくり返したり、合わせ鏡で見たり……あらゆる思考の手法がツールとして紹介されています。読み進むと、きっと「そうか、こんなものの見方が3000年前からあったんだ」というような発見がありますよ。

著者は学生時代から、言語・都市・メディアの分やで評論活動をし、都立高校教諭などを経て、武蔵野美術大学非常勤講師を務めています。

推薦者:朝日新聞社教育総合本部 元朝日新書編集長 岩田一平