『LIFE SHIFT』 リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著 池村千秋訳 東洋経済新報社 就職に留まらず、人生のヴィジョンを考えたい人にオススメ

こんなコンピテンシー強化に役立ちそう!
内的価値、ヴィジョン

女性87.05、男性80.79。この数字は何を表しているかご存知でしょうか。正解は日本人の平均寿命(2015年)です。男女ともに過去最高を更新したと朝日新聞デジタルが報じていました(2016年7月27日)。ご存知の通り、日本は世界でもトップクラスの長寿国です。記事では厚労省の担当者の話として「医療技術の進歩や健康志向もあり、平均寿命はまだ延びると予測される」と述べられています。

本書は今の日本をさらに上回る超長寿社会の到来を予測しています。『いま20歳の人は100歳以上、40歳の人は95歳以上、60歳の人は90歳以上生きる確率が半分以上ある』と分析しています。このような超長寿社会において、長寿化の恩恵を最大限に受けるためにはどうすればいいのかについて述べているのが本書です。

この書評を読まれている方はおそらく大学生や若手ビジネスパーソンが多いと思われますが、戦後のベビーブーム時代に生まれたいわゆる団塊の世代は『教育→仕事→引退』という3ステージを前提に生きてきた世代だと本書では位置づけています。日本においては3ステージに加えて、大企業を中心に終身雇用を前提とした働き方が主流であったため、大学卒業後に就職した会社で定年まで勤めあげることが一般的な働き方でした。年金などの社会保障制度も十分に機能していたため、金銭的には引退後の人生も安心して暮らすことができた世代といえます。一方で今の20歳が100歳以上生きることを前提とした場合、3ステージの生き方や日本の社会保障が機能しなくなることが予想されます。大学生や若手ビジネスパーソンは世界的にもロールモデルのない超長寿社会を生きる可能性が高いことを自覚しておいたほうがよさそうです。

100歳まで生きることを考えた時に真っ先に不安になるのはお金ではないでしょうか。有形資産の代表格である金銭的なリソースの重要性を著者は指摘していますが、それと同じくらいスキルや健康、人間関係といったお金に換えられない価値のものも重要であると述べられています。これら無形の資産を著者は生産性資産(スキル・知識など)、活力資産(健康・人間関係など)、変身資産(不確実性への対処能力)の3つに分類して、有形と無形の両方の資産を充実させることが重要であると説いています。変身資産などは終身雇用を前提としていた上の世代では不要な資産だったかもしれませんが、柔軟な働き方を実現する上では必要な資産と言えるでしょう。

本書ではこのような資産を持ち、有効活用することで『教育→仕事→引退』という直線的な3ステージ以外の働き方が可能になると説いています。しかしながら、資産を築くためには投資が必要です。これまで余暇時間に楽しんできたレクリエーション(娯楽)の比重を減らして、リ・クリエーション(再創造)に充てることの重要性を説いています。

私は本書を読んで昨今議論されている働き方改革に通じるものがあると感じました。兼業や副業といった柔軟な働き方が生産性資産や変身資産を豊かにし、複数の収入があることで金銭的にも安定する。ひいては超長寿社会を見据えて現行の定年制度にとらわれない働き方を実現できるのではないかと考えました。

朝日新聞社教育総合本部 木村慎太郎選