研究職の現場
「課題設定」で「観る力」を鍛える。 日々、「違いに気づく」訓練を

研究職に必要なコンピテンシー
課題設定 解決意向 創造性 論理的思考 疑う力

大塚製薬株式会社
佐賀栄養製品研究所・研究員
女性の健康推進委員(NPO法人 女性の健康とメノポーズ協会認定)
上野友美さん

企画の鍵は可能性のあるデータ
さらに、成分の有効性・安全性を確保する

――研究員の業務は、実際どのような事をするのですか?
「まずは製品の企画から入ります。研究所の場合は、企画を立ち上げる段階で何かしらのデータをもって、製品化の可能性とその意義を提示しないと意味がないので、まずはそのデータを取るところから始めます」

――では、企画が立ち上がるまでにかなり時間がかかるのですか?
「逆にそこに時間はかけないですね。いちから始める場合もありますが、何か別の製品を研究している段階から、新しい企画の可能性を探り、ベースとなるデータもとれるのが理想です」

――企画から製品化まではどのよう進めていくのでしょうか?
「データをもとに、人の体にきちんと効果があるのか、どういうメカニズムで効くのか、実際に効いている成分は何なのか。そういった事を調べて、最終的に製品の形にもっていくのが研究所の一番の仕事です。そこを抑えないと、製品の有効性も安全性も担保出来ないと考えます。きちんと効く成分が必要量入っているという保証と、食品にとって最も重要である安全性の担保をとっていく事が責任です」

――手がけられた商品にはどのようなものがありますか?
「例えば、更年期の女性向けの製品を作りたい、というところから始まった『エクエル』があります。この製品の場合は、まだ世の中にあまりなかった『エクオール』という素材を使って、エクオール含有の食品を作るところからはじめ工業的にどうもっていくかというところまで合わせてやりました。立ち上げから発売まで18年くらいかかりました」

――すごく長い間ひとつの製品に携わるのですね。
「発売した今も、安全性に関わるデータ収集を含め研究は続いていますよ」

「研究のテーマ」は日々の中の「気付き」にある。
諦めずに研究を続ければ、「失敗」は「発見」に。

――研究職に必要なコンピテンシーについて教えてください。
「まず、研究の入り口は、テーマ、何をやるかを考える事ですが、その中で課題を見つけていく『課題設定』は大事だと思います。同じものを見ても、面白いと気付ける人と、当たり前と思う人がいますから。私は理学部だったのですが、学生時代に教わったのは『観る力を身につける』事。ただ見るのではなく、『違いに気付ける目を持て』とずっと言われていました。その気付きが研究のテーマになるからと。日頃からその訓練はしていましたね」

――学生の時から意識的に出来る事ですね。
「また、研究職であれば、その課題を見つけてからの『解決意向』も重要です。研究をしている段階では上手くいかない事の方がほとんど。それで毎回心が折れていると前に進めません。諦めてしまった時に、それはおそらく失敗になってしまいます。たとえ期待した結果が出なくても、その結果を次につなげる努力をすることで、失敗は発見になると思います」

――「論理的思考」「疑う力」はなぜ必要なのでしょう?
「企業で研究職に就くという事は、やはり周りを説得して進めていく必要があるので論理的に説明出来る力は必要です。また、自分のテーマはどうしても我が子のようにかわいいので(笑)、いいところだけ見てしまう傾向があるんです。そこで冷静になって、第三者の目線になって疑う事も大事です」

研究者としての興味ではなく
消費者にとってどう大事かを考える

「研究においては、『創造性』というコンピテンシーも必要なのですが、これが一番難しいです。新しい食品はどんどん世の中に出てくるので、世の中にない新しい素材自体を作って製品化するのが、他社には真似出来ない強みになる。『エクエル』はまさにそのひとつですが、一から生み出す大変さはもちろんあります」

――研究職のどんなところに魅力を感じますか? また、仕事をする上で大切にしている事はなんですか?
「自分の企画で思った通りのデータが出て、きちんと消費者のためになる製品が出来上がる、その過程に一から携われるのはとても魅力的です。製品を作る上では、当たり前ですが、消費者の方々を騙さない、嘘をつかない製品を作るが基本です。その上で、本当に自分が自信を持って消費者の方に出せるのかを、重点におきます。成分やメカニズムの違いは、研究者としては興味がありますが、それが実際に買う人にとってどこまで大事か、そこに立ち戻らないと他に代替えの効かないたったひとつの商品は作れないですから」

――近年はリケジョ(理系を目指す女の子)も増えています。リケジョならではのやりがい、苦労などはありますか?
「『エクエル』のように、女性特有の悩みに対応した製品の場合、男性だとどうしてもイメージがわかないところがあって理解していただくのに大変な部分はあります。ただ、女性だからこそ発想出来る企画でもあるので、それはやりがいにも繋がります」

「幅広い経験」が、あなたの魅力に。
製品を一から生み出す喜びを味わってほしい。

――企業の研究職を目指す学生たちが、今から出来る事と言えば何がありますか?
「大学での研究をそのまま企業で続けられる事はなかなかなく、実際は初めてやる事ばかりだと思います。大学在学中には、自分のテーマだけでなく、ほかの人が何をやっているのかを見たり、いろんな装置を触ってみたりして経験しておくといいと思います。すべてが初めてだと、やはり怖いものですし、研究の上でいろいろな経験をしている事が会社から見ると魅力的だったりしますから」

――最後に、研究者を目指す若者にメッセージをください。
「大塚製薬の場合、研究所だからといって、実験のみをやるだけではなく、企画、製品設計、さらにはマーケティングまで、関わる範囲は多岐に渡ります。製品の完成前後に関われるのは、企業の研究者だからこそ出来る体験ですし、やりがいもあると思います。研究職を目指す人がもっと増えると嬉しいですね」