教職の現場 教師の“影響力”は、生徒の背中を押す。 それが子どもの未来を変え、世界をも変える(第1回)

教職に必要なコンピテンシー
個人的実行力、内的価値、影響力の行使、地球市民、
誠実さ

広島女学院中学・高等学校 国語科・グローバル教育推進部
副主任
那須泰(なすやすし)さん

教職は「人と関わり、人を変えることができる」信念を胸に規格外の環境からスタートした教師の道

――那須さんが教師を目指したきっかけは?
「小学校4年の担任の先生との出会いがきっかけです。私が所属していたサッカーのスポーツ少年団の顧問で、毎週日曜日になると練習試合に行き、その先生の家にも泊まらせてもらうことも多々ありました。この先生の影響で、私の生き方も大きく変わったと思います。学校やスポ小(=スポーツ少年団)を通じて、家族よりも多くの時間を過ごす中で、『人に一番関われて、人を変えることができる。それが教師という職業だ』と感じていました。思い返せば、小学生の頃から『こんな先生になりたい』と教師という職業を目指していたと思います」

――実際に教師になってからはいかがでしたか?
「大学卒業後は私立の男子校に勤めました。課題を抱えた生徒の多い学校であることはわかっていましたが、『ここで教師ができなければどこに行っても務まらない。この経験は絶対自分のためになる』と考え、2年間勤めました。当時の広島は暴走族やチーマーが夜の繁華街を闊歩している時代でした。私のクラスにもそのようなグループと関係のある生徒もいました。いざこざに巻き込まれ、暴力沙汰になったこともあります。上下の前歯4本が抜け落ちるまで暴行を受け、警察と一緒に現場検証をしながら血まみれの歯を拾い集めたこともありました。それが教師2年目の出来事。想像を絶しますよね(笑)。

でも、私が小学生の時の恩師に支えてもらったように、彼らが自分で歩めるようにしたかった。いくら手がかかっても、どんな生徒も可愛くて仕方なかったですね。解決方法をじっくり考える間もなかったです。だだ、ただ、毎日全力って感じでした」

――『誠実さ』がなければできない。まるでドラマのような世界ですね。
「全て現実ですよ(笑)。次に赴任したのは、男女共学の中堅の私立高校でした。赴任4年目から特進コースの担任となり、進学実績を伸ばしていくことに力を注いできました。当時、特進コースから国公立大学に合格する生徒は数人でしたが、最初の卒業生の時に10人、次のサイクル(高1~高3を持ち上がりで担任を務めた学年)の時に20人を超え、3回目のサイクルの時は全体で30人以上の合格実績を残せるようになりました。もちろん、学校の理解や特進コースの組織づくりに共に全力をささげた同僚、他の先生方とのチームワークあってのことですが、前任の男子校で培ってきた「徹底的に関わる」という姿勢を貫いてきた成果だとも思っています。

ただ、30歳も半ばになり、今までのハードワークがたたって体調を崩しました。半身がしびれるという状況が続き、このままでいいのかと悩みました。娘が小学校へ上がることも重なって、退職を決意しました。そんな中で、私に救いの手を差し伸べてくれたのが、広島女学院です」

パーソナリティを把握した上でかける言葉の重み
生徒が自ら歩み始めるための『影響力の行使』

――教師として生徒と対峙するとき気を配ることは?
「大事なのは生徒たちのパーソナリティを把握することです。私は、毎朝、自分のクラスに行って生徒といろいろな話をします。あらゆる理由をつけて昼休憩にも顔を出しますね。授業もだいたい5分前に教室に行きます。『先生暇なの?』って生徒に言われますけど(笑)、それは生徒の個々の情報を掴むためです。クラスの状況や仲の良い生徒同士の関係の変化など、いろいろな時間帯に様子を見に行くことでわかることがある。そういった情報を把握することで、次に生徒にかける言葉は変わるわけです。さまざまな情報共有の中で信頼関係を築く、そして、必要だと思った瞬間に一言声をかける。その一言が生徒たちの心にすっと入った瞬間、大きく成長する一歩を踏み出す契機となる。まさに、教師に不可欠なコンピテンシー『影響力の行使』です。

ただ、『影響力の行使』できる瞬間は、生徒個々によって違いますし、『行使』の仕方も千差万別。だから難しい。でも、その瞬間を逃さず、一歩踏み出せるように背中を押す。その『影響力』を与えられるかどうかが教師の力だと思っています」

――生徒を引っ張っていくことが必ずしも重要とは言えない?
「『オレについてこい!』式の『独裁』の形で生徒を引っ張っていくのは限界があります。生徒たちの主体性に火をつけなければ、自分で歩むことはできません。その『主体性』に火をつけるには、生徒自身を思いとどまらせているマインドセットを変え、自分で道を切り開いていく楽しさを感じさせる必要があります。多くの生徒たちは自分の今までの経験に立脚した視点でしか物事を見ることができず、人生の幅を自分で狭めてしまっています。この状況だと自分の範疇を超える壁にぶち当たった時に対処できない。しかし、マインドセットが変わると、違う視点で世の中を見られるようになり、生徒たちの人生の幅を広げることにもつながっていきます。マインドセットを変え、様々な角度から物事を見つめ、視野を広げていく。このサイクルを体得した生徒たちの人生は、不思議なくらいハッピーな方向に変わっていきます。間違いなく…。その瞬間に関われるのが教師。これって、すごいことだと思いません?」

「このマインドセットに変化をもたらし、『人生の幅をどれだけ広げていくか』に大きく関わる教科が『現代文』だと私は確信しています。大学入試で出題される『現代文』の評論は、筆者独自の視点から現代社会の問題を分析しています。ということは、評論を一題読んで理解するということは、現代社会を読み解く視点をひとつ増やすということです。『なるほど~。こういう視点からこの問題を考えることもできるんだ!』という経験は、マインドセットに変化をもたらすきっかけになるということです。現代社会を見つめる視点を増やせるどうかが、社会に出た時の大きな差となる。だからこそ、『現代文』はさまざまな教科の中で最も難しくも尊い(?)教科だと思っています。」

――そこが那須さんの『内的価値』ですか?
「そうですね。『現代文』を通じて、マインドセットに変化をもたらし、生徒自身が自らの視野を広げていく。それを実践できる生徒を育てていくことが、教科指導における一番の目標であり、私が現代文の教師をしている大きな理由、『内的価値』ですね。もちろん、古文も漢文も小論文も教えますよ!」

>>第二回に続く

SGH(スーパーグローバルハイスクール)
経済危機や紛争、環境汚染など、世界のあらゆる社会的問題に責任を持って取り組み、国際的に活躍できるグローバルリーダーを育てるためのプロジェクト。2014年度から文部科学省が開始。SGHとして、グローバル人材の育成に取り組む高校・中高一貫校を指定した。(2016年4月現在、全国で123校が指定を受けている。)2014年度指定された56校の中間評価が2016年9月に発表され、広島女学院中学高等学校は、6ランクの中の最高評価(4校)を獲得した。