楽観主義と悲観主義 そのバランスは?(第1回)

朝日新聞の一面に「折々のことば」というコラムがあります。哲学者の鷲田清一さんが、感銘を受けた言葉の数々から毎日一つを選んで、その言葉にまつわる一文とともに掲載しています。わたしも経済記者生活などを通じて、ビジネスに役立つ言葉を記憶に留めてきました。このコラムをまねて、就活生のみなさんが覚えておいても損のない言葉を毎回ひとつ選んでみたいと思います。

「悲観主義者はあらゆる機会の中に問題を見つけ、楽観主義者はあらゆる問題の中に機会を見つける」ウィンストン・チャーチル

チャーチルは、第二次世界大戦時の英国の首相です。意志の強さとちゃめっけを感じさせるブルドック顔を世界史の教科書に載っているカイロ会談やヤルタ会談の写真で見たことのある人も多いでしょう。

チャーチルは、回想録「第二次世界大戦」でノーベル文学賞をとった文筆家でもあります。また、演説やウイットのきいた言い回しの巧みさが有名な弁舌家でもありました。そのため、今もいろいろな場面で使われる数々の名言を残しています。その中から選んだのがこれです。

この名言とセットで覚えているといい有名な小咄があります。「未開の地を2人の靴のセールスマンが訪れました。人々はみんな裸足で暮らしています。1人のセールスマンは、『これでは売れない』とがっかりしました。もう1人のセールスマンは『いくらでも売れる』と喜びました」という話です。

もちろん、前者が悲観主義のセールスマンで、後者が楽観主義のセールスマンです。小咄では、いい悪いは言っていないのですが、聞く人は後者のほうがいいセールスマンだと思うことでしょう。チャーチルの名言もいい悪いは言っていませんが、楽観主義者を評価しているのは間違いありません。チャーチルには、こんな名言もあります。「私は楽観主義者だ。それ以外のものであることは、あまり役に立たないようだ」。楽観主義びいきなのは明らかです。

サントリーの経営者だった佐治敬三さんの口癖で、今もサントリーの社是のようになっている言葉に「やってみなはれ」があります。これも同じような意味です。若い社員が提案したことに対して、上司は失敗の心配ばかりするのではなく、「成功すればいい。失敗しても次への糧になる」と前向きに考えようということです。

私も楽観主義のほうが好きです。前向きな提案をしても、できない理由を次々に並べ立てる人には「仕事をしたくないだけじゃないの」と内心思ったりします。

ただ、会社という組織で社員全員が「あらゆる問題の中に機会を見つける」タイプだと、それも問題です。リスクを顧みず、いけいけどんどんの暴走が心配されます。「あらゆる機会の中に問題を見つける」タイプの人が随所にいて、チェックが働くことも忘れてはなりません。

要は、組織全体としても、個人としても、楽観主義と悲観主義のバランスでしょう。では半分半分がいいのかというと、私はそうは思いません。ビジネスは攻めなければはじまりません。少々のリスクがあっても、ひょいっと飛び越える勇気と自信が必要です。いろいろな人を巻き込んでいくパワーも必要です。そのためには、楽観主義がやや強いくらいのバランスがいいと思います。特に若いうちは、かなり強いくらいがちょうどいいのではないかと思っています。

朝日新聞社 教育コーディネーター
一色 清(いっしき・きよし)
1978年朝日新聞社入社。福島総局、成田支局、経済部記者、週刊誌「アエラ」編集部、経済部次長を経て、2000年「アエラ」編集長。beエディター、出版本部長補佐などを歴任。08年10月から11年3月までテレビ朝日「報道ステーション」コメンテーターを務めた。共著に『知の挑戦 本と新聞の大学』(集英社新書)。