チェンジが常態、現状維持は異常
トランプ勝利に垣間見えるアメリカの国民性
Trump World ①

米大統領選の結果が判明した11月9日、世界中でトランプショックが走ったようです。「9・11 or 11・9」といった書き込みがSNSを駆け巡りました。過激な発言で周囲を翻弄するドナルド・トランプ氏(共和党)の勝利は、米同時多発テロ(2001年9月11日)の驚きに匹敵するということでしょうか。しかし、驚嘆や動揺する前に、アメリカでは常に「チェンジ」が常態であることを胆に命じるべきです。

「27年後に壁?」という書き込みもありました。ベルリンの壁崩壊(1989年11月9日)を引き合いに、「メキシコ国境に壁を築く」が公約のトランプ氏の当選に対する困惑を表現したものです。外交・安保政策では、環太平洋経済連携協定(TPP)の離脱表明、同盟国の「応分の防衛負担」発言、ロシアのプーチン大統領称賛などで世界は動揺しているようです。日米安保でも、日本政府が駐留米軍経費を満額負担しない場合の米軍撤退を示唆しており、政府内で不安が広がっています。

しかし、看過すべきでないことは、アメリカ人は動態的、ダイナミックな「人種」であるという点です。常に変化を体感していないと満足できません。彼らの意識のなかでは現状維持は「異常」で釈然としません。8年前の大統領選でも、オバマ氏が「チェンジ」を訴えていたことを思い出してください。根本的な変化を好まず、現状維持志向の日本人と好対照です。社会学者の大澤真幸さんは、自著『日本史のなぞ』(朝日新聞出版)で、日本社会では「内発的な意志に駆動された変化は生じにくい」と分析し、成功した革命家は北条泰時しかいなかったと断言しています。

米国がこの先、内向きになることは必至です。もちろん、客観的にみて、米国には世界秩序を構築・維持する能力はまだまだあり、それによって米国自身の繁栄も享受できるという説にも理はあります。トランプ氏にその気がないだけなのでしょう。しかし、たとえトランプ氏が「信頼できる指導者」(安倍首相)であっても、現状維持に絶え難い国民性を鑑みると、日米関係に変化が訪れることは避けられないでしょう。

もう一つ、今回の大統領選で気になることがあります。白人貧困層に反既成政治を訴え、反エリート主義者とみられていたトランプ氏が、ハーバードやコロンビアとならび、エリートを輩出するアイビーリーグの一つであるベンシルベニア大卒であることです。しかも、ビジネス教育で知られるウォートンスクールで学んでいました。

杉本 宏(すぎもと・ひろし)
朝日新聞社教育総合本部 シニアスタッフ
1984年に朝日新聞社に入社。政治部、外報部記者を経て、ロサンゼルス支局長、アトランタ支局長、ワシントン総局員などを務める。五輪やW杯、ハリウッドの動向からロサンゼルス暴動、9・11同時多発テロ、米ロ首脳会談など、国際問題を幅広く取材した。共著に「アメリカ解体全書」(KKKベストセラーズ)。昭和女子大現代ビジネス研究所の研究員も兼ねる。