「誰がボスか」と迫るトランプ氏/前例無視の発言で米中関係に暗雲/Trump World ②

Who’s your boss? ――トランプ次期米大統領の発言を聞いて、こんな英語の言い回しがふと頭に浮かびました。彼ほど型破りは珍しいですが、このタイプの威圧的なボスはどこにもいます。あなたの上司がトランプ流だったら、どうしますか。

「誰がボスか知っているね」と上司に尋ねられれば、部下は震え上がり、Yes. SirまたはYou are the boss.と即答するしかありません。しかし、ビジネスで富を築いた自信満々のボスは、そんな直接的な表現を決して口にはしません。自分のプレゼンス(存在感)をちらつかせ、「賢明な君なら分かるだろう」と暗に悟らせます。

そんな上司のイメージを連想させたのがトランプ氏の対中ゆさぶり発言です。「なぜ『一つの中国』政策に縛られなければならないのか」。こうトランプ氏は疑問を呈し、中国大陸と台湾はともに「中国」に属するという「一つの中国」原則の見直しもあり得ると示唆しました。長年、米中関係を支えてきた大原則を踏襲するかどうかは、通貨・貿易政策や南シナ海問題などでの中国の対応次第だというメッセージです。

自国の利害と実力を冷徹に弾けば、「誰がボスかすぐ分かるはすだ」と言外に中国側に諭しているかのようです。中国政府は反発しつつも、冷静な対応に努めています。しかし、中国のSNSでは、前例無視の「流氓」(リュウマン:不良、ごろつき)に屈するなといった声が流れています。

トランプ流といえば、オバマ大統領の前任者であるブッシュ大統領もトランプ氏と似ているところがありました。米単独行動主義を「是」としたブッシュ氏は、同盟国や友好国に対し「我われの政策に同意してくれなくても構わない。そうならば、それで結構(fine)」と突き放した言い方をよくしました。出来る限り対等に扱うが、突き詰めれば、「主従関係」だということぐらい賢明な君なら分かっているはずだ。そう言われたも同然と思うほど、ブッシュ氏の「威圧」は迫力満点でした。

トランプ氏もブッシュ氏もアイビーリーグのビジネススクール卒で、ビジネスの世界で成功を収めました。信心深いキリスト教徒という点でも共通しています。派手な女性遍歴で知られ、カジノビジネスに手を出したトランプ氏ですが、酒もたばこもやらないそうです。今回の大統領選では、白人福音派の8割以上、白人カトリック層の6割の支持を集めました。二人の「誰がボスか」的な言動は、「成功の結果、神が自分を認めてくれた」という自信に裏打ちされているのかもしれません。

こんなボスは扱いにくいですか。残念ながら、実社会では友人や仲間だけで仕事はできません。(杉本 宏)

杉本 宏(すぎもと・ひろし)
朝日新聞社教育総合本部 シニアスタッフ
1984年に朝日新聞社に入社。政治部、外報部記者を経て、ロサンゼルス支局長、アトランタ支局長、ワシントン総局員などを務める。五輪やW杯、ハリウッドの動向からロサンゼルス暴動、9・11同時多発テロ、米ロ首脳会談など、国際問題を幅広く取材した。共著に「アメリカ解体全書」(KKKベストセラーズ)。昭和女子大現代ビジネス研究所の研究員も兼ねる。