「人物を信じて抵当となす」

ビジネスに役立つ言葉たち⑪

朝日新聞社教育コーディネーター 一色清

      渋沢栄一

日本資本主義の父といわれるのが、渋沢栄一です。渋沢は明治から昭和初期まで日本の多くの会社の設立に関わりました。日本最初の銀行である国立第一銀行(現在のみずほ銀行)をはじめ、東京証券取引所、理化学研究所もそうです。今ある東京ガス、王子製紙、キリンビール、東京海上日動火災、東急、帝国ホテルなどもルーツは渋沢にたどり着きます。渋沢が設立に関わった会社は500を超えます。そして、多くの会社が名前や形は変えましたが、今も生き続けています。まさに日本資本主義の父です。

渋沢が重んじたのは、倫理と利益の両立です。ただ金儲けがうまいというのは長続きしない、誠実に仕事に向きあい、社会に役立つ仕事をすることが大事だと考えました。利益をあげたあとも、得た富は社会に還元しないといけないとも考えました。そうした考えですから、取引する相手の人物もよく観察したようです。

銀行で最も大切な仕事は、お金を貸すことです。でも返ってこないこともあります。それを避けるために土地などを担保に取ります。返ってこないときには、担保をもらうためです。このやり方では、担保がない人にはお金を貸せないことになります。資産はないが能力やアイデアはある人に貸せないのは、社会の損失になりかねません。渋沢は、人物を信じることができれば、時には無担保でもお金を貸すという考え方をとったのです。

信用は、金融の世界だけで大切なものではありません。どんなビジネスの世界でも信用がなければ、長続きしません。信用を得るには、ウソをつかない、約束を守る、手を抜かない、心が安定している、などいろいろな側面があると思います。簡単ではありませんが、いったん信用を得られると仕事はぐっとやりやすくなるでしょう。どんなに技術が進んでも、どんなにグローバルな社会になっても、ビジネスでは最後まで人と人との関係は残ります。これから社会に出る若者は、「信用される人間になる」ということを大目標に掲げるのもいいかもしれません。

朝日新聞社 教育コーディネーター
一色 清(いっしき・きよし)
1978年朝日新聞社入社。福島総局、成田支局、経済部記者、週刊誌「アエラ」編集部、経済部次長を経て、2000年「アエラ」編集長。beエディター、出版本部長補佐などを歴任。08年10月から11年3月までテレビ朝日「報道ステーション」コメンテーターを務めた。共著に『知の挑戦 本と新聞の大学』(集英社新書)。