さあ、どう出るアメリカ?トランプ米政権が始動/キーはアメリカ的信条/就任演説から占う今後

みなさん、いまさらですが、今年もよろしくお願いします。
仕事始めのコラムは、「トランプ米大統領の時代が幕開け」をとりあげることにします。善くも悪くも、日本、世界、さらには地球への影響が極めて大きいからです。

1月20日の就任演説については、すでに各種メディアが論評しています。産業や雇用での”America First”, “transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you, the People”, “This American carnage stops right here” といった主張をアピールしたトランプ節は健在でした。

もはや米国は、これまでのように国際秩序の維持に手間をかける余裕はない、今後は米国第一主義に徹して国難を乗り切る――総じていえば、こう宣言したに等しいという論調に異論はないです。少なくとも第2次世界大戦後に限れば、これほど内向き志向を露骨に表明した大統領は初めてではないかという見方にもうなずけます。

しかし、私が演説で特に注目したのは、以下のくだりです。

“We will be protected by the great men and women of our military and law enforcement and, most importantly, we will be protected by God.”

新大統領は、旧約聖書を引用して、米国民が団結すれば、国難に全く恐れることはないと強調したあと、「われわれは、軍と法執行機関に守られる、そして何よりも、神に守られるからです」と声のトーンを一段上げました。これを聞いていて、文化人類学者の故マーガレット・ミードの著書「火薬をしめらせるな」がふと頭に浮かびました。

この本は、アメリカ人の国民性やアメリカ人気質を分析しています。その中でミードは、ピューリタン革命の指導者オリバー・クロムウェルの「神を信じ、そして火薬をしめらせるな」(believe in God and keep your powder dry)という言葉にアメリカ的信条の神髄を見出しました。神の正義は常に自分たちの側にあると信じ、万全の備えを怠りさえしなければ、自分たちは無敵であるという確信です。もちろん、この確信は、自立した個人の努力と自己責任を前提にしています。

「神の保護」に訴えるトランプ演説は、こうしたピューリタン的な信条がいまも健在であることをうかがわせます。米国は、「政教分離」の原則を掲げる国ですが、大統領が演説で聖書を引用したり、「神」を連発したりすることは珍しいことではないです。いまもキリスト教の宗教言説と政治が密接に結びついています。

「神」に言及してアメリカ精神を鼓舞するスタイルは米国政治の伝統といえます。トランプ氏は型破りで例外的な大統領かもしれませんが、この点では、歴代大統領とまったく変わりません。

「Trump World」の今後を占う上で、可変的な要素だけに着目することは危険です。伝統的な要素とバランスをはかることが重要である、と改めて思いました。(杉本 宏)

 

杉本 宏(すぎもと・ひろし)
朝日新聞社教育総合本部 シニアスタッフ
1984年に朝日新聞社に入社。政治部、外報部記者を経て、ロサンゼルス支局長、アトランタ支局長、ワシントン総局員などを務める。五輪やW杯、ハリウッドの動向からロサンゼルス暴動、9・11同時多発テロ、米ロ首脳会談など、国際問題を幅広く取材した。共著に「アメリカ解体全書」(KKKベストセラーズ)。昭和女子大現代ビジネス研究所の研究員も兼ねる。