危険な瀬戸際政策に米国はいつまで付き合うのか

写真は、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けた国連安全保障理事会の緊急会合前、会見する日本の別所浩郎(中央)、米国のニッキー・ヘイリー(左)、韓国の趙兌烈(チョ・テ・ヨル)各国連大使=16日、米ニューヨークの国連本部 ©AsahiShimbun

北朝鮮の弾道ミサイル発射

避けたい制御不能な状態

北朝鮮が今月半ば、また弾道ミサイルを発射し、核・ミサイル開発を続ける意思を誇示しました。トランプ政権は今のところ、軍事手段に出る構えは見せていませんが、このまま北朝鮮の瀬戸際政策(brinkmanship)がエスカレートすれば、朝鮮半島で戦争が勃発するシナリオはますます現実味を帯びてくる、とみられます。

北朝鮮が発射したミサイルは、高度2000キロを超え、約800キロを飛行し、日本海に落下しました。今回は、角度を通常より上げて高く打ち上げる「ロフテッド軌道」で、飛距離を抑えたとみられます。専門家の間では、軌道を変えれば、米領グァムまで届く可能性があるとみられています。今回の実験には、米本土に到達する大陸間弾道ミサイルの開発を続けるぞ、という対米メッセージが込められています。

では、なぜ、北朝鮮は、このタイミングでミサイルを発射したのでしょうか。空母を朝鮮半島近海に配備するなど軍事的手段も辞さない米国への対抗ではないか。そんな米国と一緒になって圧力をかけてくる、かつての盟友・中国の言いなりにはならないという姿勢を示したのではないか。南北対話を模索する韓国の文政権を相手にしないとアピールしたかったのか。様々な臆測が流れています。

いずれにしても、北朝鮮の究極の狙いは、アメリカとの直接対話です。それによって休戦状態の朝鮮戦争を終結させ、独裁体制の「生き残り」を図りたいのです。そのために、北朝鮮は、危険な瀬戸際政策をエスカレートさせているのです。

いまや北朝鮮の「お家芸」である瀬戸際政策とは、緊張を意図的に高めることによって、相手に譲歩を迫る脅しの手法を指します。一見、非合理なようですが、極めて合理的な脅しです。冷戦時代、ゲーム論を軍事戦略に応用したことで知られ、後にノーベル経済学賞を受賞した故・トーマス・シェリング氏によれば、瀬戸際政策とは、「戦争という共有されたリスク」をあえて瀬戸際で操る脅しの手法です。

米朝が急な崖の頂上にいると想像してください。米国が北朝鮮の要求をのまないと、北朝鮮は足を一歩滑らせる。それでも米国が北朝鮮の言うことをきかないと、さらにまた一歩先へ。前に進むほど傾斜は深くなります。問題は、地面が雨で緩んでいるかもしれないし、強風が吹くかもしれないことです。その場合、米国は北朝鮮の「道連れ」になってしまいます。つまり、北朝鮮は、あえて瀬戸際に近づき、自分ではコントロールできない「偶然」に身を任せることを選ぶわけです。

米国は今のところ、今回の発射を米本土への直接の脅威とは捉えておらず、冷静に対処しています。しかし、北朝鮮の瀬戸際政策が破綻すれば、予防攻撃も辞さないかもしれません。北朝鮮の弾道ミサイルが技術的にも作戦運営的にも米本土に到達可能であるとトランプ政権が確信したとき、「開戦前夜」の空気に包まれるでしょう。それまでに、外交的手段で収まることを願うばかりです。

杉本 宏(すぎもと・ひろし)朝日新聞社教育総合本部 シニアスタッフ
1984年に朝日新聞社に入社。政治部、外報部記者を経て、ロサンゼルス支局長、アトランタ支局長、ワシントン総局員などを務める。五輪やW杯、ハリウッドの動向からロサンゼルス暴動、9・11同時多発テロ、米ロ首脳会談など、国際問題を幅広く取材した。共著に「アメリカ解体全書」(KKKベストセラーズ)。昭和女子大現代ビジネス研究所の研究員も兼ねる。