南仏ニーステロの現場で感じたこと:フランス内の宗教・民族による分断浮き彫りに

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南仏ニースのテロの現場付近に設置された追悼の場。連日、多くの人々が集って花束やロウソクを捧げている ©Kiyori Ueno

連載:世界は広く、おもしろい!

現在、私はフランスに来ている。パリに到着したのが7月13日。その翌日、世界でも屈指のリゾート地、南仏ニースで大きなテロが起きた。私は急ぎ、ニースに行き、子どもを含む84人が死亡し、200人以上が負傷した悲惨な事件をカバーすることになった。現場で事件の取材をしていて私が見たのは、多数の移民を抱えるフランス社会の分断だった。

 事件は革命記念日だった14日の夜、ニースの海岸沿いで起きた。暴走する19トントラックが群衆に突っ込み、次々と人々をなぎ倒したのだった。フランスを襲った大規模テロは、2015年1月のシャルリー・エブド襲撃事件以来、18カ月間で3回目。同年11月には同時多発テロで130人が犠牲になった。今回のテロは、オランド大統領が非常事態宣言を解除した直後に起きた惨事だっただけに、フランス人のショックは大きかった。

 テロの容疑者とされるモハメド・ラフエジブフレル容疑者がトラックで暴走した遊歩道「プロムナード・デ・ザングレ(英国人の散歩道)は、五つ星のホテルや高級レストラン、アパートが立ち並ぶ通りだ。その前に広がるビーチには白や青のパラソルが並び、真っ青な地中海の海辺で水と戯れる人々の姿が見られる。遊歩道では多くの市民や観光客が散歩をしたり、ジョギングをするなどし、輝く太陽のもと夏のヴァカンスを楽しんでいる。

 「プロムナード・デ・ザングレ」の名は、18世紀に冬の間、地中海の暖かい気候と美しい眺めを求めてニースに来ていた英国貴族たちに由来している。この名の通り、ニースにはフランス国内だけでなく、世界各地からセレブリティーを含め多くの観光客が集まる場所だ。ラフエジブフレル容疑者がトラックを暴走させ、花火の見物客を次々となぎ倒したのは、まさにこの遊歩道だった。

 ラフエジブフレル容疑者は10年ほど前にニースに来たチュニジア人で、配達の運転手をしていた。同容疑者が暮らしていたのは、海外沿いの遊歩道から4キロほど北東の移民が多く住む労働者階級の地域だ。その近くにはフランスで“HLM(Habitation à Loyer Modéré)”と呼ばれる、低所得者層用の高層アパートが何棟も建つ。ラフエジブフレル容疑者の自宅アパート付近のカフェや食料品店で買い物をする人々の中には、ヒジャブ(ムスリムの女性が頭にかぶるスカーフ)姿の女性たちも多く見られる。この地域に住む大多数は同容疑者と同じフランスの旧植民地・保護領である北西アフリカのマグレブ(チュニジア、アルジェリア、モロッコなどの国々)の出身で、彼らにとり、“高級リゾート地ニース”は遠い存在だ。

 この、移民が多く暮らす地域で人々に話を聞くと、リゾート地ニースの華やかな生活と移民たちの貧しい生活や、フランスにおける差別や偏見が露呈した。

 モロッコ生まれの47歳のバス運転手の男性は、「(ニースの)ビーチには子どもの頃から毎年行っているが、海岸沿いの高級ホテルやレストランに足を踏み入れたことは一度もない。ラグジュリーな場所で、全てが高いからね」と話した。

 この男性は3歳の頃、既にニースに渡り、建設現場で働いていた父親に母とともに呼び寄せられてニースに来た。今はフランス国籍を持つ。毎日の祈りはしないが、ラマダン中の断食はするムスリムだ。男性は、ラフエジブフレル容疑者がチュニジア人で、ムスリムだったことから、移民に対する差別が深まるのを懸念する。「フランスで最近起きたテロは全て“ムスリム”によるものだった。だから多くのフランス人が事件をムスリムと結びつけるだろう」と話す。「フランス人の我々に対する差別は植民時代からずっとあったが、テロの事件で差別はますます強まるだろう」。

 フランスは日本とは違い、移民社会だ。フランスは戦後、自国の再建のために、かつて自分たちの植民地・保護領だったマグレブ(リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコなど北西アフリカ諸国)などから多くの人々を労働者として受け入れてきた。その結果、マグレブからは多くの移民がフランスに移住してきた。現在人口約34万人のニースには、チュニジア人だけで4万人が暮らしている。これはフランス国内でも最大規模のチュニジア人コミュニティーだ。

 フランスは植民時代から、フランス語を習得し、フランス文化に適合することでフランス人になれるという “同一化”の政策を取ってきた。移民の融合は欧州ではどの国でも困難を抱えており、フランスもその例外ではない。そしてフランスには推計500万人のムスリムがおり、これは西欧諸国で最も大きなムスリム人口だ。

 また、移民たちは多くが郊外に暮らし、ラフエジブフレル容疑者のような運転手や、ホテルの清掃などの低賃金の仕事に就くことが多い。「移民たちの生活は貧しい」と先述のバス運転手の男性は言う。「それに、ニースの失業率は高いけれど、移民たちの失業率、中でも若い移民たちの失業率は高い。仕事を見つけられないでいる」。

 モロッコ移民のバス運転手の男性は、「フランス人は肌の色で我々を判断し、差別的な目で見る。私は外国に行けばフランス人と言われるが、フランスではフランス人ではない。移民とフランス人は融合していない」と言う。

 フランスや欧州に流れ込む移民の数はここ数年でも増えている。テロが起きたフランス革命記念日は、国中で宗教を超えてフランス建国の理念「自由・平等・友愛」を祝うはずの日でもあった。その夜に起きた悲惨な事件。フランスはこれからどのようにこの宗教や民族による分断を乗り越えて行くのだろうか。

上野きより ジャーナリスト、フォトグラファー、元国連機関職員
信濃毎日新聞社、ブルームバーグ・ニュース東京支局などで記者として働いた後、国連世界食糧計画(WFP)のローマ本部を経て、食糧支援の現場であるエチオピア、ネパールで働く。2016年から独立。米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院修士課程修了。慶應義塾大学文学部卒業。東京出身。