• 世界を知る
  • 考えるニュース
  • 「オリンピックは、勝つことでなく参加することに意義がある」 近代オリンピックの創始者 ピエール・ド・クーベルタン男爵

「オリンピックは、勝つことでなく参加することに意義がある」 近代オリンピックの創始者 ピエール・ド・クーベルタン男爵

ビジネスに役立つ言葉たち

リオデジャネイロ・オリンピックは数々の名場面を残して閉会しました。1896年にアテネで第一回の近代オリンピックが開かれてから120年。オリンピックは、誰もが認める地球上最大のイベントに成長しました。そのオリンピックを発案し、育てたのが、フランス人のクーベルタン男爵です。

この言葉は有名ですが、実はクーベルタン男爵が最初に使ったものではありません。日本オリンピック委員会(JOC)のホームページによると、ロンドンのセントポール大寺院の主教が最初に述べた言葉です。1908年の第4回オリンピック、ロンドン大会の最中の日曜日。選手たちがセントポール大寺院に礼拝のためにやってきました。当時、イギリスチームとアメリカチームが競技を巡って険悪になっていました。それを戒めるために主教が述べた言葉でした。
クーベルタンは、「オリンピックに参加することは、世界平和の意味を含んでいる」と考えていたため、この主教の言葉に感銘しました。そこで、大会に関するイギリス政府主催の晩餐会の時に、この言葉を使ってスピーチをしました。以来、この言葉は、クーベルタンがオリンピック精神を示した名言として残ったのです。

ただ最近、この言葉はあまり使われなくなったように思います。「税金を使って強くなって遠い国にまで行っているのに、参加するだけで満足といった気持ちでは困る」というのが、日本の空気だと感じます。「参加することでなく、勝つことに意義がある」というわけです。選手をそんなに追い込まなくてもいいのにと思いますが、選手自身も「期待に応えられずすみません」と謝るのですから、この空気はもはや国全体を覆っているということでしょう。

でもこの言葉をオリンピックに出るわけではない私たちがかみ締めることは、意義のあることです。何事も参加することから始まるという心がけは、人生にもビジネスにも大切です。

就活を考えてみましょう。大変そうだから参加するのをやめようと思えば、就職は難しいでしょう。まず、自分がやりたいことを見つめ、エントリーシートを書くことから始まります。この会社は自分にはとうてい無理だと思って最初からエントリーしなければ、チャンスはゼロです。でも、エントリーシートを出して参加すれば、可能性はゼロではありません。

英語がうまくなりたければ、英語を使う機会のある何かに参加しないと始まりません。人見知りする性格を直したければ、人がたくさん集まって交流したり発表したりする何かに参加することが大切です。彼氏彼女がほしければ、合コンに参加することで始まるかもしれません。

ビジネスでいえば、コンペでも入札でも参加しなければ始まりません。社内外の勉強会も参加すれば、思わぬ人と仲良くなれたり、悩んでいた解決策が見つかったりすることがあります。出世レースも意欲を見せて参加しなければ、出世できないものです。

何事も参加することから始まるという解釈は、クーベルタンが本当に言おうとしたことの解釈としてはやや浅薄ではあります。でも、わかりやすい解釈ほど使い勝手のいいものです。参加しようかどうしようか迷っていることがあれば、「参加することに意義がある」とつぶやいてみましょう。迷いが吹っ切れ、そこに飛び込んでみるおまじないの言葉になると思います。

朝日新聞社 教育コーディネーター
一色 清(いっしき・きよし)
1978年朝日新聞社入社。福島総局、成田支局、経済部記者、週刊誌「アエラ」編集部、経済部次長を経て、2000年「アエラ」編集長。beエディター、出版本部長補佐などを歴任。08年10月から11年3月までテレビ朝日「報道ステーション」コメンテーターを務めた。共著に『知の挑戦 本と新聞の大学』(集英社新書)。