世界へ羽ばたくのに必要な「起業家精神」―日米比較で考える(第3回目)

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グローバル社会で活躍するうえで不可欠なのが「起業家精神」(entrepreneurship)です。正念場を迎えたアベノミクスでも、第3の矢に当たる成長戦略の柱の一つに「産業の新陳代謝とベンチャーの加速」を掲げ、様ざまな起業支援策を推進しています。しかし、日本では、起業にチャレンジする野心的な層は薄いです。今回は、そんな日本とベンチャーが盛んな米国の起業環境を比較してみます。

安倍首相は昨春、全米屈指のハイテク都市・シリコンバレーを訪れ、スタンフォード大学での講演では、日本の若手企業家らを派遣するプログラムを発表し、「シリコンバレーの文化を余すところなく吸収し、その色に染まってもらう」と強調しました。

日本では、広義の起業家精神、つまり、未開拓の分野で企業を立ち上げたり、社会の課題解決に果敢に挑戦したりしようとする意欲や野心が育ちにくいという危機感が見え隠れします。じじつ、米国の非営利研究機関が公表した2016年の「グローバル起業家精神ランキング」によれば、トップの米国に対し、日本は30位。台湾が6位、シンガポール11位、韓国27位と、アジア勢と比べても見劣りします。

経産相の諮問機関である「ベンチャー有識者会議」の報告書は、その結果を興味深い数字で示しています。即ち、フォーブス誌の企業ランキング”Global 2000”社の該当企業(銀行、保険、投資サービス業は除く)のうち、1980年以降に設立された米企業は154社(該当米企業の3分の1)、日本企業24社(該当日本企業の8分の1)と。

日本のベンチャーに、技術力や斬新なビジネスモデルがないわけではありません。起業しやすい環境が整っていないため、それらを発揮する機会が少ないのだと思います。単純化を恐れずに言えば、日本は、コツコツ型で安定志向の社会。大企業では、終身雇用と年功序列制がいまも基本です。敗者復活戦のチャンスが限られており、事業に失敗して会社をつぶすと銀行の融資は非常に厳しくなります。

一方、米国は、ハイリスク、ハイリターン型の競争社会。たとえ会社をつぶしても再チャレンジしやすい土地柄だと言えます。どんな人間にも能力を開花するチャンスを平等に保証する制度設計にこだわりますが、能力・成果主義の激しさは半端ではありません。人種・性の差別などしていたら、肝心な競争に負けてしまう、だから、そんな愚行はしないというビジネス風土がアメリカにはあります。

シリコンバレーを何度も取材して、この風土に旺盛な起業家精神が根付いていることを体感しました。旧ソ連からの亡命科学者やインドからの移民らが才覚と能力だけで憶万長者にのし上がる成功物語は珍しくありません。最近では、seniorprenuers(シニア起業家)とか、encore entreprenuers(アンコール起業家)と呼ばれる高齢者による創業も急増しています。ちなみに、この種の起業は、男性より女性の方が盛んなようです。

もちろん、日本の企業文化が悪いわけではありません。米国の土壌では、過当競争の試練に耐え、いつ首を切られるか戦々恐々としているより、自分で企業する方が精神的にはるかに楽で「人間的」と考えることも出きます。

さて、あなたは、日本型ですか、それとも米国型ですか。自分自身を見詰め直してください。

杉本 宏(すぎもと・ひろし)
朝日新聞社教育総合本部 シニアスタッフ
1984年に朝日新聞社に入社。政治部、外報部記者を経て、ロサンゼルス支局長、アトランタ支局長、ワシントン総局員などを務める。五輪やW杯、ハリウッドの動向からロサンゼルス暴動、9・11同時多発テロ、米ロ首脳会談など、国際問題を幅広く取材した。共著に「アメリカ解体全書」(KKKベストセラーズ)。昭和女子大現代ビジネス研究所の研究員も兼ねる。