エチオピアの女性起業家:古タイヤを使った靴のフェアドレードで大成功

(写真説明 “ソールレベルズ” のアディス・アババの店舗で話す創業者のベツレヘム・ティラフン。今では世界的に知られる女性起業家だ。©Kiyori Ueno)

連載:世界は広く、おもしろい!

GROW連載の第6回でも紹介したように、エチオピアは今、経済成長のただ中にいる。今回は、そのエチオピアで、古タイヤをリサイクルしてお洒落な靴を作り適切な価格で販売し、利益を地元に還元するというフェアトレード・ビジネスを見事に成功させ、国際的にも注目されているエチオピア女性起業家、ベツレヘム・ティラフンを紹介したい。彼女の成功は、成長する今のエチオピアを象徴するようでもあり、エチオピアの社会にとり希望でもある。

 ベツレヘムのフェアトレード靴のブランド名は“ソールレベルズ。”ビジネスを始めたのは16年前だ。コンセプトは、使い古しの自動車タイヤをリサイクルし、エチオピアの特産である革や、天然素材を使った手織りの布などと合わせてスタイリッシュなサンダルや靴などを作る、というものだ。ベツレヘムはこうして作った靴を適切な価格で販売し、利益を上げ、地元エチオピアの靴職人たちに適切な給料をもたらすフェアトレードのビジネスを築き上げた。ソールレベルズは今では世界各地に店舗を持ち、オンラインでも世界中で販売するまでに大成長している。

 ソールレベルズは2006年には世界フェアトレード機関(WFTO) から世界初の“フェアトレード・グリーン・フットウェア企業”として認定された。ベツレヘムは2011年にダボスの世界経済フォーラムの“ヤング・グローバル・リーダー”に選ばれ、2012年には米フォーブス誌の“もっとも成功しているアフリカ人女性”の1人に選ばれるなど、輝かしい功績を残している。

 今では大成功したベツレヘムが生まれ育ったのはアディスの中心部から車で30分の場所にある村ゼネブワーク。父は政府系機関で電気工として働いていたが、休みなしで働いてもわずかな給料しかもらえず、家計はいつも苦しく、貧しかった。家族は病院の調理室で働いていた母と弟が3人。「自分は父のように、働いても働いても貧しいというようにはなりたくない、と思って育った」とベツレヘムは話す。

 起業したいと思ったのは、高校卒業後3年間通った専門学校を出て税理士として会社勤めをしていた頃だった。毎日決まりきった仕事で、かつ給料は低い。よりよい仕事はないかといつも考えていた。思いついたのが天然素材や手織りの布など自分の生まれ育った村にあるものを使ってビジネスをすることだった。村ではもともと男性たちがタイヤを捨てずに再利用して黒色のシンプルなサンダルを作っていた。女性たちは糸を紡いだり、布を織っていた。子どもたちも大人を手伝って刺繍をしていた。自分の生まれ育った村にはこのような環境があった。これをビジネスにしようとひらめいたのだ。

 2002年、自分と弟を含めて5人でリサイクルタイヤを使いビーチサンダル作りからのスタート。2年後、親族などから集めた約1万ドル(約104万円)の資金で会社を設立した。今では、従業員が、デザイナー、糸紡ぎ、布織り、革の裁断、縫製などの職人たちと、セールスなどの計120人。工場とはいえ、機械であるものといえばミシンぐらいで、他は全て“ハンド・メイド”だ。現在、工場をさらに拡張するところで、今年9月には従業員は500人になる。新工場が稼働し始めると、生産数は今の一日当たり150―200足から1500足へと一気に増産できるようになる。「今後はもっと拡大して、エチオピアの人々の雇用を増やしていきたい」とベツレヘムは話す。

 直営店舗はエチオピアに店舗のほか、ギリシャ、米国、スイス、スペイン、シンガポール、台湾など9カ国・地域に17店舗。他にオンラインで販売しており、日本を含め世界65カ国に顧客がいる。

  エチオピアは世界でも最貧国の1つで、巨額な援助金がアメリカ、イギリス、欧州などの先進国から入っている。援助漬けの国ともしばしば呼ばれる。国連や、日本のJICAを含めた数多くの政府系開発組織、国際NGOがあちこちで食糧、水、保健などのプロジェクトを行っている。私が携わっていたのも国連の食糧支援の仕事だった。

 けれどもベツレヘムは、「援助に頼りきることに危惧感を持つ。寄付や援助よりもビジネスの力を信じている」と断言する。「誰もが自分の足で立つことが必要だ。なぜならそれこそが持続可能だからだ。援助は全てを壊してしまう。仮に、援助により行われているプロジェクトが突然なくなってしまったら、そのプロジェクトに頼りきって人々は全て失う」と話す。

 ベツレヘムは会社の従業員に対しては、エチオピアの平均的な賃金の4倍は支払っている。「安い賃金は持続可能ではない。自分の力で学校に行けること、靴を買えること、そういう力をつけなくてはならない」と強く語る。「私は自分のビジネスをする上で、利益だけを追求するのではなく、人々の意識を変えることが必要だと思っている。それは共同体や社会を変えることにつながっていくからだ」。

 エチオピアは保守的な国だ。家事を担当するのは今でも主に女性であるし、公的な場所では女性が表に立つのを回避する風潮が根強い。そのような国だが、最近女性起業家が少しずつ増えている。「自分はそのような女性たちの先駆者として、『彼女ができるなら私もできる』と啓蒙し、刺激を与えてきたかなと思います」とベツレヘムは話す。

 エチオピアのような最貧国でも、思いついたアイデアをもとにビジネスを作り上げ、自分もローカルの人々も恩恵を受けるウィウィンな環境を作り上げることができる。そのいい例をベツレヘムは見せてくれる。

上野きより ジャーナリスト、フォトグラファー、元国連機関職員
信濃毎日新聞社、ブルームバーグ・ニュース東京支局などで記者として働いた後、国連世界食糧計画(WFP)のローマ本部を経て、食糧支援の現場であるエチオピア、ネパールで働く。2016年から独立。米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院修士課程修了。慶應義塾大学文学部卒業。東京出身。