グローバル社会で不可避な「人種関係」

聞いて欲しい「私には夢がある」演説/米社会で再燃する人種問題に思う

相次ぐ警察官による黒人射殺事件で米社会が揺れています。Black lives matter(黒人の命も大切だ)と訴える抗議デモが各地で続く中、白人警官が黒人の男に次々に殺されています。今回は、米国を例にとり、日本ではあまり耳にしない「人種関係」について考えてみます。

米紙の報道によると、ルイジアナ州で7月5日、黒人男性が2人の白人警官に倒され、地面に押さえつけられた状態で撃たれ、亡くなりました。6日には、ミネソタ州で、乗用車に乗った黒人男性が警官に止められ、免許証を取り出そうとした際に撃たれ、死亡しました。いずれの事件も目撃者や車の同乗者が一部始終を撮影し、生々しい現場の様子がネットの動画サイトやソーシャルメディアによって全米に流されました。

そんな中、テキサス州で7日、警官5人が黒人の男に狙撃されて亡くなりました。BLM集会のさなかの犯行です。警官による黒人射殺に怒りを覚え、白人警官への仕返しを口にしていたそうです。17日には、ルイジアナ州でも警官3人が黒人の男に撃たれ死亡しました。

警官絡みの黒人への暴力は、今に始まったことではありません。筆者の特派員時代、50人以上の死者を出したロサンゼルス暴動(1992年)が起きました。あのときの引き金は、警官による黒人青年暴行事件の裁判で出た無罪評決でした。この青年が暴動後、テレビでCan we all get along? と呼びかけ、暴動についてIt’s not going to change anything.と語ったのを今も鮮明に覚えています。

とはいえ、黒人大統領が誕生したいまも、同様の事件が絶えないことに差別の根深さを思い知らされます。刑事司法の現場では、人種による対応の差が消えません。オバマ氏自身、捜査当局に昨年射殺された黒人の比率は白人の2倍以上だったと認めています。

米社会は、よくサラダボールにたとえられます。多人種が共存していても溶け合わないからだそうです。公立校などでの「(白人と黒人は)分離すれども平等」の原則が最高裁で違憲判決を受けて久しいです。学校や職場、軍、商店などでの人種統合は進んでいます。しかし、住居や教会などでは、慣習的に「白人は白人、黒人は黒人」に分離する傾向が目立ちます。「すみ分け」の方が居心地いいと言えば、それまでですが、分離意識が先鋭化すると、今回のような悲劇が起こりかねません。

どの国でも人種に対する差別や偏見は少なからずあります。あからさまな差別でなくても、目に見えない分離線のようなものを感じることもあります。例えば、レストランで客が少ないのに厨房に近い席に座らされたり、買い物店で店員に「貴方にふさわしい店は別の地区にあります」などと慇懃無礼な扱いを受けたり。

そう憤慨する自分に差別意識がないかと問われれば、答えに窮してしまいます。正直、ふとしたことから「心の中の偏見」に気づき、葛藤することもあります。

そんなときは、自戒を込めて、黒人公民権運動の父、故マーチン・ルーサー・キング牧師が53年前にワシントンで行った「I have a dream」演説を思い出すよう心掛けています。その一節を紹介しておきます。

I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.(私には夢がある。いつの日か、私の4人の子どもが、肌の色ではなく、人となりそのものによって判断される国に生きるときがくるであろう)

人種や能力、地位、肩書より一段高い「人となり」という普遍的な道徳的規準で評価されるべきという信条が、黒人社会を超えて白人の共感を呼び起こしたのだと思います。(杉本 宏)

杉本 宏(すぎもと・ひろし)
朝日新聞社教育総合本部 シニアスタッフ
1984年に朝日新聞社に入社。政治部、外報部記者を経て、ロサンゼルス支局長、アトランタ支局長、ワシントン総局員などを務める。五輪やW杯、ハリウッドの動向からロサンゼルス暴動、9・11同時多発テロ、米ロ首脳会談など、国際問題を幅広く取材した。共著に「アメリカ解体全書」(KKKベストセラーズ)。昭和女子大現代ビジネス研究所の研究員も兼ねる。